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映画『CUBE』 好奇心と恐怖心、そして絶望、現代社会の縮図を描く傑作スリラー

映画『CUBE』 CUBE

世界を犯す、騒がしい絶望。
カナダの恐るべき新鋭がおくる、20世紀の言葉では語れないオーヴァー・ジャンル・ゲーム・ムーヴィー。

既に20年前の作品、VFXがもたらした新しいジャンルのスリラー

この作品、“オーヴァージャンル・ゲームムービー”と言うらしい。
そうスリラー、SF、サスペンス、犯罪、脱獄、そしてスプラッタの要素が入り組んでいる。

まずは、相当怖いスリラー&スプラッタ作品であることが判る。
いきなり視覚的に、キューブの内部に罠が仕掛けられていることを見せる。
従って、一つの扉の向こうに何が有るか?観ているものを恐怖に陥れる。

この作品、映画館で観たら、よっぽど怖かったに違いない、到底、私には怖くて挑戦する気にはなれないけど(汗)

キューブ内部のデザインは、幾何学的な模様が描かれ、四角い部屋の閉塞感、そして部屋毎に違う過激な色調で、観ているものの感情を不安定にさせる。
それは内部にいる人間においては尚更だろう。

この映画の素晴らしい点は、以下の2つの点で楽しめることだろう。
一つはサスペンス的な要素と言うか、キューブからの脱出劇であろう。
数学を駆使したトリックは、なかなかユニークで面白い。

ネタバレになるが(これから観る人は読まないで!)、キューブが移動していること、実は一部屋だけ、26×26×26の部屋の外に一つだけ部屋が余計に有ること...そしてスタートの部屋がゴールで有ること...この意外性、決して新しくはないが、よく考えられている。

実際、数学的な素数や因数の計算は、知り合いの大学院生が、色々解いているところをみると、発想としてもよく考えられていて面白い。
この謎解きの面白さ、しかもそれがいつ死ぬか判らないぎりぎりの緊迫感の中で行われている点も、より一層、観るものを楽しませる。
結果として、キューブの罠に掛かり死ぬのは、冒頭の2人だけ。
この2人の死が、最後まで恐怖感を煽り続けるのは、その扇情的なキューブ内部の造形に有るのだろう。

そこでは、無機質さがキーになる。
この無機質さこそが、2つ目のポイントなる。
もう一つの楽しみは、人間内部の感情とそれに関わる社会を、この数人の登場人物と限られた空間の中だけで、描いている点である。
キューブ自体の存在を言及する際、目的が有って作られたものではないこと。
作った人間は、その一部しか、その存在を知ることがないこと。
そして、誰が作らせたのか?自分たちが何故、その内部に居るのか?それ自体、何も意味がなく、社会と同じく既にそこに存在し、その中で生きていかなければならないこと(ここでは無事脱出する事)。

出口が見つかった際に、一人の男が出ることを拒む。
それは実社会に戻る意味がないと。
そうキューブ自体が社会を切り取っている、それも見事なまで無機質な部分だけを。

全員の服装は作業着のみとされ、指輪も外されている。
ただ(キューブ内での)生活に必要な眼鏡だけが残されていた。
究極な無機質な状態に人が追い込まれることによって、実社会では隠されていた人間の本質(あるいは本性)が如実に現れてくる。
模範的な人間だと思われていた男が、殺人鬼に変貌していく。
それは人間が社会の歯車でしかないと知った時に、自分自身を見つめ直し、そこに残った本質が行動となって現れているようだ。

ラストの光の中に脱出していく様は、脱出の喜びやある種の希望よりも、むしろ、これからの実社会という新たな迷路への恐ろしい前兆を感じさせる。
単なる“オーヴァージャンル・ゲームムービー”と言うだけではなく、見事に人間性までも描いた作品と言え『ガタカ』等と並ぶ新しい感覚の近未来SF作品である。

監督はカナダ人のヴィンチェンゾ・ナタリと言う人で、今までは短編映画でその才能を発揮し、SF映画『JM』で絵コンテを担当した人らしい。
今回、キューブ内のデザインの一部も彼が行ったらしい。
セットのキューブは、1つ半が作られ、キャストは7名、残りはCGを駆使、製作費も日本円にして約5,000万円という超低制作費。

短編『エレヴェイテッド』

Elevated 1997年 カナダ
監督■Vincenzo Natali Genre
出演■Vicki Papavs....Ellen/Bruce McFee....Ben/David Hewlett....Hank Country

付録として?ビデオには、ナタリ監督のデビュー前の短編作品が収められていました。
エレベータと言う限られた空間内で、見知らぬ人たちが、お互いを疑う『CUBE』にも見られた、人間の本質をここでも描こうとしているのが見える。

但し、短編と言うことや試行錯誤の部分が見られるので『CUBE』程の完成度は見られない。
サスペンス映画を試行した作品としては面白い。
『ゾンビ』を思い出してしまう展開は、やはりメジャー・デビューをする監督としては、通り道的な作品。
デビッド・ヒューレットは、この後『CUBE』にも出演。

Reviewed in 06.1999

映画『CUBE』のデータ

CUBE 91分 1997年 カナダ

監督■ヴィンチェンゾ・ナタリ
製作■メーラ・メー/ベティ・オアー
製作総指揮■コリン・ブラントン
脚本■ヴィンチェンゾ・ナタリ/アンドレ・ビジェリク/グレーム・マンソン
撮影■デレク・ロジャース/スコット・スミス
音楽■マーク・コーヴェン
編集■ジョン・サンダース
美術■ダイアナ・マグナス
SFX監督■ボブ・マンロー/ジョン・マリエラ
特殊メイク■カリガリ・スタジオ
SFX■C.O.R.E.デジタル・ピクチャーズ
出演■モーリス・ディーン・ウィン/ニコール・デボア/デヴィッド・ヒューレット/ニッキー・ガーダグニー/アンドリュー・ミラー/ウェイン・ロブソン/ジュリアン・リッチングス

<DATA>

 奇抜なストーリー、斬新なビジュアル・センスで話題となったカナダ産異色サスペンス。
 謎の立方体(=CUBE)に閉じこめられた男女6人の脱出劇を、緊迫感漲る演出で描く。
 ゲーム感覚の謎めいた物語やシュールな美術・SFX等を駆使し、人間の闇部を抉った秀作。

 ある日突然、密室に閉じこめられた6人の男女。
 それは正方形の巨大な立方体だった。
 いったい何のために作られたものなのか、なぜ自分たちが閉じこめられたのかは誰も知らない。
 脱出方法は6つあるハッチのいずれかを選び、同じ立方体でつながっている隣に移動しながら出口を探す以外ないが、いくつかの部屋には殺人トラップが仕掛けられていた。
 そんな中、やがて彼らは安全な部屋を示す“暗号”に気づくが・・・。 <allcinema

 目が覚めると、四角い部屋の中。
 そこは一辺が約5メートルで、6つの壁面にはそれぞれ隣の部屋に通じるハッチがある。
 そんなキューブの中で偶然に出会った6人、刑事のクエンティン(モーリス・ディーン・ウィント)、数学が得意な女学生レブン (ニコール・デボアー)、女医のハロウェイ(ニッキー・ガーダグニー)、謎の男ワース(デビット・ヒューレット)、精神病者のカザ ン(アンドリュー・ミラー)、脱獄囚のレン(ウェイン・ロブソン)、ここは一体どこなのか、いつから何のためにここにいるのか、外に出ることは出来ないのか、密室に閉じこめられた彼らは葛藤の中で、体力と知力を振り絞りキューブからの脱出を試みるが・・・。

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