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映画『怒り』 レイプとゲイのラブ・シーンだけではない!

映画『怒り』  怒りのない怒りとは

あなたは殺人犯ですか?

とにかく俳優たちの演技がイイ!

大人のための大人の映画。
今年は『シン・ゴジラ』が大人のための童心に帰る映画、『君の名は。』は全ての世代に送る青春映画なら、この作品は大人がじっくりと見れる作品

ただとっても暗い作品だから、これだけの俳優陣じゃないと単なる地味な作品になっちゃったかも。
個人的には、女優陣全員が素晴らしかった!と思う。

この作品は、完全な謎解き映画では無いんですが、一応、サスペンスなのでネタバレになるかもしれないので、後半は映画を観てから読んで下さいm(__)m

イントロダクション

『悪人』('10)の李相日監督×吉田修一原作のコンピが再びタッグを組んだ作品。
『悪人』で日本アカデミー賞をはじめ、国内の映画賞を総ナメにしてから6年、音楽に坂本龍一を迎え、原作者・吉田修一が「物語の登場人物には、映画『オーシャンズ11』のようなオールスターキャストを配してほしい。」と言う希望にそって、日本を代表する7人の豪華俳優陣が集結!

この配役も絶妙、もちろんその迫真の演技が素晴らしい。
「愛した人は、殺人犯なのか?」
“人を信じる”と言う人間の本質を問いかける感動作、予備知識はこのへんにして是非見て欲しい作品。

これ以下はネタバレになるかもしれないので、映画を観てからお読みください~

私的『怒り』

① テーマが有るか?共感できるか?

タイトルの「怒り」は何だったのか?を考える作品。
犯人の怒りは見事なまでに意味がなく、殺人の動機すら存在しない。
テーマとしては「人を信じる」ことを問われる、人を信じると裏切られ、人を疑うと亀裂が生まれ、人間は純粋に人を信じることはできないのだろうか?と。
今の世の中は複雑になり過ぎて、人を簡単に信じることが出来ない世の中なのかもしれない、それに対する大いなる「怒り」がある。

社会が複雑になり「根拠のない怒り」が人間不信を呼び、改めて人を信じることを思い出すことに、ラストの大きな感動が有った。

② 作り手の強い意思を感じるか?

『悪人』では一つの犯罪を、それぞれの立場の視点から見た場合に、その真実とはどこにあるのか?と言う物語だった。
今の世の中に 「人を簡単に信じてしまうこと」の怖さ「人を信じることができなかったこと」の不幸を問いかける、李相日監督と吉田修一原作に込められた強い時代性を感じる。

③ 俳優の意思や演技力が伝わるか?

とにかく全ての俳優たちが素晴らしかった。
特に女優陣、ヒロインの宮崎あおい、広瀬すずが迫真の演技、ここまでするか?!と言う体当たりの演技。
また出演時間は短いが、高畑充希、池脇千鶴の存在感も良かった。
それにしても広瀬すず、彼女の天才性は監督によって磨かれる、もちろん他の主演作品での可愛らしい(だけの)役柄も良いけど、『海街Diary』とは別に意味で素晴らしい演技をしていた。
今回は体当たりで、米兵にレイプされるシーンを演じている、もちろん広瀬すずの表情だけで表現している訳だが、それでも生々しいのは、彼女の処女性の裏返しを上手く利用している。
そして宮崎あおい、彼女はあるゾーンに入ると物凄い演技をする、今回はで出しからラスト近くの一点を見つめるシーンまで狂気すら感じる演技だった。
冒頭の風俗嬢の姿で、ノーメイク(用のメイク)でボーッとしているところから、この作品に対する入れ込みようが感じられる。

最後に妻夫木聡、『悪人』で李相日監督にその才能を開花させられた俳優だが、この作品でも見事なツボを押さえていてゲイ役を見事に演じてみせていた(相手役の綾野剛のカメレオン俳優ぶりも良いけど)。
妻夫木聡もエリートサラリーマンでゲイらしい嫌らしさを感じさせてくれたし、受けのゲイぶりの綾野剛も良かった。

④ 映画らしい楽しさが備わっているか?

百聞は一見にしかず、と言うのは映画には重要な点だと思う。
最後(近く)まで犯人の顔を映さずに(3人の顔を合成したものだと思うけど)公開写真だけが見せられる。
映像から想像をふくらませる

そして3ヶ所の場所ごとの映像が美しく、俳優たちの演技を映えさせている。

⑤ エンターテインメント性

大人のためのエンターテインメントであり、決して明るい話ではない。
理不尽な怒りによる慟哭が描かれる。

一方でそれを見事に演じた俳優たちと背景となる舞台の映像の美しさのコントラストが見事で、これは映画ならではエンターテインメント性と言える。
久々に好きな絵(映像)の作品でもあった。

にしても、前半の新宿?のゲイの世界を丹念に見せるところも生々しい、特に白い肌の綾野剛(これも隠れて逃げ回る犯人を予感される)に対して、黒光りしている妻夫木聡の肌がコントラストを醸し出してイヤラシイ、それも楽しいと取るか?個人的には苦手なんだけど。

⑥ 演出が素晴らしいか?

142分と言う長尺な作品でありながら、その長さを感じさせない。
編集を最初から頭に入れた演出がなされている点、そしてあまりに役にハマった役者を選んでいるが、実は少しずつ今までの演技と外している。

渡辺謙の抑えた演技、少女的な宮崎あおいにはスッピンでの演技、可愛らしさだけではなく悲しみ演じた広瀬すず、いつもの泣きの演技だけではなく見事なゲイを演じきった妻夫木聡。

そして3ヶ所を同時進行で話を進める上で、安易に性風俗に走る女性、ゲイの実態描写、米軍基地と米兵による暴行問題などをバランス良く配置している。

⑦ 脚本が素晴らしいか?

3つの同時進行の話を、場面(場所)が変わる時に似たようなアイテムを挿入して違和感なく繋いで見せる、と言った手法も入れている。
3つの場所で進行する物語の繋ぎが上手く、しかもテンポが良くなっている。
それがこの尺でも、ダレることなく緊迫感もありつつ見続けることができる。

⑧何度も見たくなるか?

重く辛いテーマの作品、流石に繰り返し見たいか?と言われると。
でも犯人の「怒り」は何だったのか?それは時代で変わるものかも?また観て確認してみたい。
そして、なんと言っても演技を見るだけでも価値がある、それは何度でも。

原作者としての吉田修一は、犯人は3人のうちの誰か?と言うサスペンスを求めていた。
しかし映画の観客としては、ホクロの話から素性まで、実は3人が同一人物で映画のトリックで別の時間を同時進行として見せられているのかな?とも思わせる。
いや、逆に一連の怒りと考えると、犯人の怒りの意味もひも解けるのかも?

映画『怒り』のデータ

監督・脚本■李 相日
原作■吉田修一(「怒り」中央公論新社刊)
企画・プロデュース■川村元気
撮影■笠松則通
音楽■坂本龍一
出演■渡辺謙/森山未來/松山ケンイチ/綾野剛/広瀬すず/宮崎あおい/妻夫木聡
公開情報■2016年9月17日 全国東宝系にてロードショー

【作品紹介】
ある夏の暑い日に八王子で夫婦殺人事件が起こった。
窓は閉め切られ、蒸し風呂状態の現場には、『怒』の血文字が残されていた。

犯人は顔を整形し、全国に逃亡を続ける。その行方はいまだ知れず。
事件から一年後。千葉と東京と沖縄に、素性の知れない3人の男が現れた。

いったい誰が犯人なのか?
あなたを信じたい。
そう願う私に信じたくない結末が突きつけられる―――。
(C)2016映画「怒り」製作委員会

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