映画『暗殺の森』 IL CONFORMISTA
輝かしい栄光が青年を裏切る、 孤独を脱れる虚無と愛欲の日々- 彼は暗殺者となる--
現代文学の旗手モラビアが描いた《孤独な青年》の愛と挫折!
イタリア人にとってのファシズム、その悪
ベルナルド・ベルトルッチ監督の作品というと『ラストエンペラー』以降の大作くらいしか観たことが無かった自分。
改めて、この作品を観てベルトルッチ監督の手腕には驚かされる。
1930年代から第二次世界大戦の終焉までのイタリアを背景に、ローマとパリで物語は展開する。
ベルトルッチは、イタリア出身。
イタリア出身の監督と言えば、私の敬愛するルキノ・ヴィスコンティ監督がいるが、どうもこの二人には共通するものを感じずにはいられ ない。
この作品が製作されたのは1970年、イタリアのファシズムを描いた作品である。
ヴィスコンティは前年の1969年、ドイツのファシズムを描いた『地獄に堕ちた勇者ども』を撮っている。
ベルトルッチ自身は、ヴィスコンティよりもフェリーニやロッセリーニの影響を受けたと言われる。
逆にヴィスコンティは、ベルトルッチに自分に近いものを感じていたらしい。
ヴィスコンティは、よりヨーロッパ的な退廃としたドロドロとした人間の欲望の中に、ナチスのファシズムを描いて見せた。
それに対してベルトルッチは、あくまでイタリア人としての視点のファシズムで有る。
それは後年の『1900年』でも明確である。
彼はイタリアのファシズムが、借り物であることを知っている上で、イタリア人の心の揺れを描いて見せた。
ヴィスコンティの演出は精緻で有る。
ディテールにまでこだわり、あくまで本物を映し出すことに専念する。
ベルトルッチは映像的な美しさを表現する。
ここでは悪臭漂う美しさなのだ。
ドミニク・サンダやステファニア・サンドレッリが美しく有れば有るほど、そこには醜悪さが映し出されていく。
逆説的でも有る、それはやはりベルトルッチはヴィスコンティよりも、フェリーニに近い存在無いのかもしれない。
この作品は、全編を通して美しい映像が印象的だ。
あまりにも美しすぎることが、人々の心とその背景を遊離させていく。
主人公が借り物のファシズムと言うものに気付いたとき、群衆が現れる。群衆の力・・・その向かう新しい方向を暗示して終わる。
この作品で最も印象的なのは、(作品としても、その映像美も印象的だが・・・)やはりドミニク・サンダの存在だろう。
彼女ほど女性の妖しさを持ち、それでいて中性的な女優は私の知る限り存在しない。
それはファシズムの反対に有るもの、最も忌み嫌う存在の象徴のように思えてならない。
ファシズムの美への固執と憎悪、男色的な運命共同体的体質とその排除の歴史・・・。
サンダは中性的な・・・ある種、男色的な意味も含め・・・魅力と、美しさが存在した。
だからこそ彼女は殺されなくてはならず、また主人公マルチェロ(トランティニャン)は彼女に惹かれたのだと。
Reviewed in 06.2000
映画『暗殺の森』のデータ
THE CONFORMIST/IL CONFORMISTA 110分 1970年 イタリア=フランス=西ドイツ
監督■ベルナルド・ベルトルッチ
製作■ジョヴァンニ・ベルトルッチ/マウリツィオ・ローディ・フィエ
原作■アルベルト・モラヴィア 『孤独な少年』
脚本■ベルナルド・ベルトルッチ
撮影■ヴィットリオ・ストラーロ
音楽■ジョルジュ・ドルリュー
出演■ジャン=ルイ・トランティニャン/ドミニク・サンダ/ステファニア・サンドレッリ/ピエール・クレマンティ/エンツォ・タラショガストーネ/・モスキン
◆アカデミー賞 1971年
脚色賞ノミネート ベルナルド・ベルトルッチ
<DATA>
ファシズムに席巻された欧州の退廃を描く映画として、ヴィスコンティの「地獄に堕ちた勇者ども」と並んで傑出した作品。以後70年代を通じ、同種の主題を扱った映画が濫作されたが、いずれもこの両作の域には遠く及ばなかった。
若い哲学講師のマルチェロ(ジャン=ルイ・トランティニャン)は少年の頃、彼を犯そうとした男を射殺した罪悪感に今もさいなまされていた。
その苦しみから解放されるためファシズムを選択した彼に、パリ亡命中の恩師である教授を調査するよう密命が下る。
ハネムーンを口実にパリに赴いたマルチェロと妻ジュリア(ステファニア・サンドレッリ)は、快く教授に迎え入れられた。
だが、恩師の若妻アンナ(ドミニク・サンダ)には目的を悟られてしまい、敵意を抱かれると同時に深い仲にもなってしまう。
やがて、別荘に向かう教授夫妻は、マルチェロの目前で暗殺されるのだが・・・。“体制順応主義者(原題)”のいびつな生き方を、ベルトルッチはなめらかな官能で包み込み、深い余韻を与える。雪の森での暗殺シーンなど映画史に残る美しさだ。 <allcinema>