映画『山猫』 IL GATTOPARDO
雄大な歴史的な背景から詳細な描写までを描ききる
この作品、シチリアのバルマ公爵ジュゼッペ・トマージ・ディ・ランペドャーザが、死ぬ前年1957年に書き上げた長編小説をヴィスコンティの数々の作品(『夏の嵐』、『イノセント』)を手伝っている、スーゾ・チェッキ・ダミーコ他3名が脚色した。
また当初161分の作品として公開されたが、カンヌ映画祭に出品の際にオリジナル版(イタリア語)が公開さている。
なんと言っても、ヴィスコンティの一大叙事詩であり、大河ドラマでも有る。
この作品は、イタリア版『風と共に去りぬ』とも言える。
『風と共に去りぬ』では、南北戦争の中、南部が時代に取り残されていく。
ここでは、イタリア統一戦争の中、貴族である公爵家が没落していく。
『風と共に去りぬ』はアメリカの物語らしく、明日への希望に満ちている。
この作品は、あくまで貴族の後ろ姿を描く。
ヴィスコンティの作品の中では、非常にストーリーが分かり易い。
ただ、これだけの大きな展開のドラマ、少し冗長な面も有るが、ヴィスコンティの演出に破綻は感じられない。
むしろバート・ランカスターを除く、脇の俳優陣の演技が全体的に薄くなっいるように感じる。
と言っても、それはヴィスコンティの他の作品に比べての事。
アラン・ドロンも非常に魅力的で野心を持った青年を好演。
また貴族と新興ブルジョワとの関係を見事に演じた、クラウディア・カルディナーレも魅力的。
そして物語のダイナミック部分をそれ以上に素晴らしい映像で包み込んだ。
全てのセットに本物を使い、本当の贅沢、豪華というものを、ごれでもか!と言うくらいに見せ付ける。
ラスト近くの舞踏会のシーンは、圧巻!
立派な内装と美しい調度品に囲まれた数々の部屋をいくつも使用して全員で踊るシーンは、これ以上は無いという豪華さ、本物がそこにある(実際は、室内を明るくするためにかなりの照明が必要だったようだ)。
貴族の生活が余りに豪華なため、それを失うことを映し出すラスト・シーンは余計にもの悲しい。銃声の音が、力による時代の変化を表現する。
英語版(2時間41分)について。
こちらの尺は、イタリア語版(3時間25分)に比べ大幅にカットされている。
と言うのも、膨大の資金を調達するに当たって、ハリウッドの20世紀フォックスの協力を得たためで、映画館の回転数を意識した20世紀フォックスの意向で短くされている。
それはともかくとして作品自体、改めて観ると短い感じがする...別にイタリア語版が有るというのを知っているから、そう思うのではない。
この映画には、大きく2つのストーリーが混在している(筈だ)。
1つは、主人公の老公爵(と言っても40代だと思ったけど)の物語。
そしてもう1つは、アラン・ドロン演じる公爵の甥とカルディナーレ演じる資産家の娘の物語。
1つ目の話が、映画が進むうちに徐々に収束して行き、2つ目の話が徐々に拡大していく、対象をなす形だと考えずにはいられない。
その点で、2つ目の話が特にアラン・ドロンがカルディナーレに恋する背景や、カルディナーレが街娘から淑女に変わっていく様の描写が、少ないような気がして物足りなさを感じさせる。
この作品はヴィスコンティの後期の傑作群に繋がるテーマが見受けられる。
それは古い世代が滅び行く美学。
バート・ランカスターが見事に、力強く過去の世代の老公爵を演じれば演じるほど、その悲しみの深さが画面ににじみ出る。
老侯爵は、頑固であり、しかし理解者であり英知の人でも有る。
それは老侯爵が他の登場人物より見た目の体格でも一番大きく、それ自体、威厳を象徴している。
この映画の魅力的な点は大きく二点。
一つは俳優の魅力である。
バート・ランカスターは見事なまでに老侯爵の立場を演じて見せた。
そして若い二人の俳優、アラン・ドロンとクラウディア・カルディナーレは若々しさ、そして美しさ、どことなく品のなさと悪魔的なところ、ドロンとカルディナーレは見事に共鳴しあう。
私の好きなシーンは、カルディナーレがパーティーで、バート・ランカスターにワルツを一緒に踊るよう申し込むシーン。
そしてワルツを踊っている二人を見つめるアラン・ドロンの表情が大好き。
もう一つのこの作品の美点は、そう背景のディテイルに有る。
イタリアの解放戦争を描くため、数多くのエキストラを配しロケを敢行したこと(確かにお金が掛かる)、そしてパーティーのシーン等 の“部屋”。
そこに生きている人々の位置づけを、部屋を見せることで観客に圧倒的な映像で見せつける。
雄大な歴史的背景と、ディテイルの美しさ細やかさ、そして人物描写の克明さ、映像の持つ力をこの映画で知ることになる。
映画『山猫』のデータ
IL GATTOPARDO (THE LEOPARD) 205(161)分 1963年 イタリア=フランス
監督■ルキノ・ヴィスコンティ
製作■ゴッフリード・ロンバルド
原作■ジュゼッペ・トマージ・デ・ランペドゥーサ
脚本■スーゾ・チェッキ・ダミーコ/パスクァーレ・フェスタ・カンパニーレ/エンリコ・メディオーリ/マッシモ・フランチオーザ/ルキノ・ヴィスコンティ
撮影■ジュゼッペ・ロトゥンノ
音楽■ニーノ・ロータ/フランコ・フェルラーラ(指揮)/サンタ・チエチリア国立音楽院管弦楽団(演奏) 『ヴェルディの未発表のワルツ』
編集■マリオ・セランドレイ
美術■マリオ・ガルブリア
衣装■ピエロ・トージ
助監督■リナルド・リッチ/アルビーノ・コッコ
製作会社■20世紀フォックス/ティタヌス/SNPC/SGC
備考■テクニカラー/テクニラマ
日本公開■1964年、1981年完全版公開
出演■バート・ランカスター/アラン・ドロン/クラウディア・カルディナーレ/リーナ・モレッリ/パオロ・ストッパ/セルジュ・レジアーニ/ロモーロ・ヴァッリ/レスリー・フレンチ/イーヴォ・ガルラーニ/マリオ・ジロッティ/ルッチラ・モルラッキ/ピエール・クレメンティ/ジュリアーノ・ジェンマ/イーダ・ガッリ/オッタヴィア・ピッコロ/ハワード・N・ルビエン
アカデミー賞 1963年
衣装デザイン賞(カラー)ノミネート ピエロ・トージ
1963年カンヌ国際映画祭
パルム・ドール授賞 ルキノ・ヴィスコンティ
【解説】巨匠L・ヴィスコンティ監督が実在の貴族ランペドゥーサの小説を基に、B・ランカスター、A・ドロンら豪華競演陣を配して貴族の斜陽を重厚に描いた壮大なドラマ。日本公開においてはまず64年に大幅に短縮された英語国際版が上映され、次いで81年にイタリア語のオリジナル版、そして2004年に完全復元版が公開された。
1860年春、統一戦争下のイタリア。腐敗した貴族支配からの解放を目指す統一運動の波は、ここシチリア島にも押し寄せる。そのシチリアを300年の長きに渡って統治してきたのは“山猫”の紋章を持つ名門貴族サリーナ公爵家だった。自らの終焉を感じながらも、これまで通り優雅に振る舞う公爵。一方、彼が目をかけていた甥のタンクレディは革命軍に参加し、機敏に立ち回る。ある日、片目を負傷し休暇の出たタンクレディは、避暑に向かうサリーナ公爵一家と合流、やがてそこで新興ブルジョワジーの娘アンジェリカと出会い恋に落ちるのだった。(映画データベース - allcinema より)
山猫を紋章に持つ貴族ファブリッツォ公爵家は、300年の長きに渡ってシシリーに勢力を誇っていた。だが、イタリア統一運動の波はシシリーにも押し寄せ、公爵の甥は義勇軍に身を投じる・・・。
実在の貴族ランぺドゥーサの小説をもとに、ヴィスコンティが貴族の斜陽を重厚に描く。
イタリア語版が205分のオリジナル、英語版は20世紀フォックスの要望により、161分となっている。
日本で公開されているのは英語版で、カンヌ国際映画祭ではイタリア語版でグランプリのバルム・ドールを授賞。
またマーティン・スコセッシが設立したThe Film Foundationとグッチの資金提供により、2010年に約1億円の費用と1万2000時間をかけて修復されたものが、日本でも劇場公開がされている。