映画『素晴らしき哉、人生!』
IT'S A WONDERFULL LIFE 130分 1946年 アメリカ
クリスマスのプレゼント、古き良きアメリカの楽天主義!
フランク・キャプラ監督の戦後初監督作品。
彼の理想主義が戦後のアメリカでは受け入れられなかったのか?この後、数本の作品を撮って引退している、この作品もヒットしなかった らしい。
現代の評価は、『或る夜の出来事』『オペラハット』『スミス都へ行く』と並ぶ、フランク・キャプラ監督の傑作の一つと言われている。
僕も、いずれの作品も好きでビデオとしてコレクションしている(だから家がビデオだらけになるんだけど)。
前半は、一見平凡そうな一人の男の人生を淡々と描き続けている。
それは、ある種の理想や優しさに溢れ、それでいてどこか強情な、何処にでもいる男性像。
主演のジェームズ・スチュアートならでは、と言う演技で安心して観ることが出来る。
そしてある時突然、彼は不幸のどん底に陥る。
しかし、そこで起きることは、天使が現れ主人公に、彼が居ない世界を見せる事、ここからの展開が面白い。
そう、一見平凡な人生で有ったとしても、そこには誠実に生きてきた一人の人間の証が、いろいろなところに落ちていて、それにいろいろ な人が関わっているのである。
それがどんな人生であれ、人間独りが生きていることには、大きな意味が有ることを彼に見せる、それは観客にこの映画が訴えかけている テーマなのだ。
フランク・キャプラ監督は、一見、楽天主義的なこの映画で、ただ人生が素晴らしい...とだけ言っている訳ではないと思う。
この映画が作られた時代も、今の時代においても、人間の社会が複雑になっていく中で、自己の喪失、そう社会の一部品としてしか自分を 見れなくなる事への一つの回答のような気がする。
どんな人生でも、生きていること自体が素晴らしいことだと、それは本人以上に周りの人達が知っているのである。
天使が現れて本人が居なかった世界を見せる発想の面白さや、フランク・キャプラ監督の俳優を捉えるカメラの鋭さ(ズーム・アップの多用)、それに応えたジェームズ・スチュアートとドナ・リードらの俳優陣の素晴らしさが、この物語を盛り上げる。
一見、単純なストーリーとテーマであるが、そこにある人間ヘの温かみや人間の存在感は、今観ても感動する。
ラストのハッピー・エンドは涙なくして観ることは出来ない...時はクリスマス・イブの夜。
私的『素晴らしき哉、人生!』
① テーマが有るか?共感できるか?
フランク・キャプラ監督の映画は楽天主義が多い、アメリカの理想主義とでも言ったら良いのか?
でも、それが古き良きアメリカであり、今ほど複雑ではない社会を反映している。
だからこそ、今もこう言った純粋な映画を観ることもにも価値を感じる。
そして、誰でも共通するテーマであり共感できる。
② 作り手の強い意思を感じるか?
世界大戦の間に、アメリカの理想を描き続けたフランク・キャプラ監督、それは戦争よりも大切なモノをそこに訴えかけていたんだと思える。
第二次世界大戦直後に、人生の素晴らしさを描いたところに監督の思いを感じる。
③ 俳優の意思や演技力が伝わるか?
ジェームズ・スチュアートはアメリカの良心を演じ続けた俳優。
演技力もそうだし、ちょっとのっぽでユニークな風貌、優しい表情と、アメリカ人にとっても癒される存在であり、外国からアメリカン人を見る時に彼が一つの象徴なのかもしれない。
④ 映画らしい楽しさが備わっているか?
アメリカ映画が一番輝いていた時代、戦争という暗い時代に映画というエンターテインメントに希望とか夢を抱いた時代。
それを代表するスター、ジェームズ・スチュアートがアメリカの理想を演じている。
また、ドナ・リードの美しさが際立つ。
⑤ エンターテイメント性
静かな展開の前半と、後半の対象的な演出で楽しめる、ジェームズ・スチュアートが出てる時点でも、スター映画とも言える。
⑥ 演出が素晴らしいか?
フランク・キャプラ監督の演出はいつも安定しているし、この時代らしい演出。
その中でズーム・アップを多用して人間ドラマを表現している点は素晴らしい。
⑦ 脚本が素晴らしいか?
これ以前の作品が、勧善懲悪的な理想論の作品が多かったが、この作品はその構成も面白く脚本も良かった。
理想的なパターンを好き・嫌いの別れるところも理解出来る。
⑧何度も見たくなるか?
クリスマスが来ると思い出し、観たくなる作品でクリスマスを代表する作品。
映画『素晴らしき哉、人生!』のデータ
監督■フランク・キャプラ製作■フランク・キャプラ
脚本■フランセス・グッドリッチ/アルバート・ハケット
撮影■ジョセフ・ウォーカー/ジョセフ・バイロック
音楽■ディミトリ・ティオムキン
出演■ジェームズ・スチュアート/ドナ・リード/ライオネル・バリモア/ヘンリー・トラヴァース/トーマス・ミッチェル/ボーラ・ボンディ/フランク・フェイレン/ウォード・ボンド/グロリア・グレアム
アカデミー賞 1946年
作品賞ノミネート
主演男優賞ノミネート ジェームズ・スチュアート
監督賞ノミネート フランク・キャプラ
編集賞ノミネート WILLIAM HORNBECK
録音賞ノミネート JOHN AALBERG
ゴールデン・グローブ賞 1946年
授賞 フランク・キャプラ
【解説】
主人公のジョージという男は、いつも何処かでツキに見放され、逆境にばかり立ち向かう運命にあった。
自分のミスではなく大金を失った彼は、全てに絶望して自殺を図る。
ところが、12月の冷たい河に飛び降りようとしたとき、彼より先に一人の男が身を投げて救けてくれと叫んだ。
あわてて救けたジョージに、男は、自分は見習い天使だと告げるが……。
映画はまず、挫折つづきのジョージの人生を語る。
この、希望が幾度となく打ち砕かれるエピソードの積み重ねには、ジョージばかりではなく観る側も、その理不尽さに怒りを感じずにはいられないだろう。
そして、天使の案内する“もし彼が生きていなかったら”という仮定の世界で、彼は自分の存在理由をかいま見る事になる。
果たして彼は自殺を思いとどまる充分な理由を見つけることが出来るのか、という部分がこの作品の要になるのだが、安易なハッピー・エンドに逃げていないのはF・キャプラの理想主義の賜物である。(映画データベース –allcinema より)