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映画『白夜』 ヴィスコンティが描くドストエフスキーの世界

映画『白夜』 LE NOTTI BLANCH

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ラストの雪の中のシーンが残酷で美しい

ヴィスコンティ作品の中で、これ程、特殊な作品だったとは...初めて観た時、驚きも感じた。
ある種、ヴィスコンティのイタリア、ネオレアリズモとの決別とも言える。
それは、この作品がセットで撮られた事、それによる、より舞台的な演出がなされていること。
しかし、ネオレアリズモとはかけ離れたところに行ったとしても、それはリアリズムの否定にはなっていない。
この作品は、舞台的、また箱庭的で有ることで、より俳優の個性が観客側に強い印象を与える。
そう、この物語では、全ての背景が排除されている、シェル演じる女性が愛した、ジャン・マレー演じる下宿人が何処へ行ったのか、 どういう人物なのか、マストロヤンニはどこから来たのか?純粋に登場人物の感情の表現だけで話が進んでいく。

主演のマストロヤンニは、この作品で初めてヴィスコンティ映画に出演する。
既に舞台では一緒に仕事をしている二人だが...
マストロヤンニはイタリア男らしく、ある種、軽薄で有りながら、それでいて愛情深い男を見事に演じきっている。
マリア・シェルは、ヴィスコンティの他の作品の女性像から少し離れたところに有る。
それは少し夢想的な少女の趣を持っている。
私は彼女に魅了されてしまった。
出演場面は少ないが威風堂々としたジャン・マレーと、夢見る少女的なシェルとは正反対の娼婦役を演じたクララ・カラマイも印象的 だ。

マストロヤンニは幸せから不幸へ、マリア・シェルは不幸から幸福へ、このコントラストが限られた登場人物の中で色鮮やかに映し出される、映像は白黒なのに。
私の好きなシーンに、マストロヤンニとシェルの最後の夜に酒場で踊るところ。
二人が一時的に幸せに盛り上がる。
心が揺れて、一瞬、二人の心が交差する、そうダンスを踊る二人の肉体のように。
しかし、このシーンは実は二人の幸福と不幸が見事に入れ替わる象徴的なシーンであった。
そして時間を知り、走り出すシェル...
映像の持つ美しさと怖さが見事に表現されている、例えそれが演劇的な様式美であったとしても。

暗く沈み込むようなストーリーを、美しく映像化し、そこに有るのは、人を愛する人間(マストロヤンニとシェル)へのヴィスコンティの深い愛情の現れだった。
ラストの雪の中でのシーンは残酷で美しい...それこそが、ヴィスコンティの描くドストエフスキーの世界なのかもしれない。

 

映画『白夜』のデータ

LE NOTTI BLANCH/QUATER NUITS D'UN REVEUR 107分 1957年 イタリア

監督■ルキノ・ヴィスコンティ
製作■フランコ・クリスタルディ
原作■フョードル・ドストエフスキー
脚本■ルキノ・ヴィスコンティ/スーゾ・チェッキ・ダミーコ
撮影■ジュゼッペ・ロトゥンノ
音楽■ニーノ・ロータ
編集■マリオ・セランドレイ
美術■マリオ・キアーリ/マリオ・ガルブリア
衣装■ピエロ・トージ
助監督■リナルド・リッチ
製作会社■CIASヴィデス/アンテルモンディア
備考■白黒
日本公開■1958年
出演■マルチェロ・マストロヤンニ/マリア・シェル/ジャン・マレエ/クララ・カラマイ/マルチェラ・ロヴェーナ/ディック・サンダース/マリア・ザノッリ/フェルディナンド・グエルラ/レオニルデ・モンテージ/アンナ・フィリッピーニ/ロマーノ・バルビエーリ

ヴェネチア国際映画祭 1957年
サン・マルコ銀獅子賞授賞 ルキノ・ヴィスコンティ

【解説】
 貴族の側に立つにしろ、プロレタリアートの代弁者になるにせよ、ヴィスコンティの視線は常に冷ややかに透徹していたが、この悲恋物語は雪に閉ざされ残酷な結末が用意されているにも関わらず、ほのぼのと暖かい印象で胸に残るのは、即ち、主人公の青年(マストロヤンニ)に対し注ぐ彼の温かな眼差しゆえに他ならない。港町で青年マリオは橋上でたそがれる一人の娘ナタリア(シェル)を見初める。一年前に再会を約束した恋人を毎晩そこで待ちわびているのだ、と言う彼女、ナタリアをなんとか踊りに誘い出すマリオ。R&Rに合わせ愉快に踊って笑わせた後、曲は主題歌“スクーザミ”に替ってチーク・タイム。喜びに輝く青年の表情を見るうち、娘の心も彼に傾きかけたが、肩に回した彼の腕時計が無常に時を刻むのをふと目にし、その秒針の音にせき立てられるように橋上へ再び駆け出してゆく。しかし、待ち人はいない。降り始めた雪の中、追いかけてきたマリオと静かに語らうと心は休まった。そして夜は明けるが……。すべてが、セットという箱庭に咲かせた愛の白い花のごとき印象。ロトゥンノのカメラはこの人工美に確かな命を吹き込んでいる。映画データベース - allcinema より)

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