映画『リンカーン』
LINCOLN 150分 アメリカ 2012年
世界を変えた英雄の<28日間>の物語―
2013年に映画館で観た映画の中で圧倒的なNo.1でした
監督はスティーヴン・スピルバーグです、私が周りの人に勧めたら、早速見に行ってくれた人がいましたが、その人の感想は「退屈」でした、確かにスピルバーグ監督作品なのに戦闘シーンもほとんどなく、議会での会話のやり取りばかりです。
スピルバーグ監督と言えば、今も『JAWS/ジョーズ』を一番の作品に挙げる人もいますし、もちろん大ヒット作『E.T.』も有りますし、その他にも好きな作品がたくさんあります。
いずれ、監督としてここで取り上げたいと思います。
スピルバーグ監督の最新作『 ブリッジ・オブ・スパイ』が公開中(2016年1月9日から)です。
スピルバーグ監督からのアメリカへのメッセージ
スピルバーグがリンカーン大統領を描くと言えば「人類の平等を訴えた博愛主義的な作品」と思いきや良い意味で予想を裏切ってくれた。
それは今のアメリカへのスピルバーグ監督からのメッセージだったと思う。
アメリカには、三権分立の上に成り立つ民主主義が存在する国家、それを成り立たせているのは、国民から選ばれた議員の信条と誠実さの上に成り立っている。
大統領は行政の長であり、議会に立つことは出来ない、だからこそ大統領としての発する言葉に魂が有る。
リンカーンが喩え話が好きな人物とは初めて知ったが、政治家の資質である言葉を大切にする事を丁寧に描いている、時にはそれが冗長に感じるのだが。
人類における正義とは何か!それを成り立たせる仕組みがアメリカには有る、それがアメリカの尊厳で有ると訴えかけてくる。
史実がそうだったのか?スピルバーグの演出なのかは、私の知識では知るよしも無いのだけど、奴隷解放の議決は、一人ずつ名前を呼ばれて賛否を回答する。
これはアメリカだけでは無く日本の政治家にも心して欲しいが、後世に政治家が成したことは名前とともに残る。
当時の政治家は、黒人の男性に参政権を与えると、ゆくゆくは女性にも参政権を与えることになる、そんな事は有り得ないとまで言う。
今、アメリカでは民主主義の根幹が試されている。
国民の多数が望んでいる、国民皆保険や銃規制が、党利党略・企業のロビィ活動によって否決されている。
民主主義の崩壊こそが、アメリカの崩壊なのだから。
そんな切実なメッセージがスピルバーグから届いたような気がした。
ダニエル・デイ=ルイスの静かな佇まいと共に、力強さがリンカーンの信念の強さを見事に表現していた。
ここに政治家に必要な資質を映し出しているようなだった。
そしてその「言葉」=演説の一つ一つが心に焼き付いた・・・
面白かったのは、意外と当時は大統領の警護と言うのがほとんど無い。
リンカーンも気軽に人の家を訪問したりしている。
まぁ~リンカーンが暗殺されたから、その後は警護ともしっかりするようになったのかもしれない。
何に感動したのか?聞かれたので、こう答えた。
政治の世界で、高い目標を達成するために汚いことでも率先して行う姿、だからこその理想の神々しさが有ると。
そして、その高みに上がるためには孤独がつきまとう、大統領というトップに立つものの孤独の姿をダニエル・デイ=ルイスが見事に演じていた。
これは、大統領だけではなくても、会社のトップや映画製作のトップに立つ者、何にでもその孤独と日々の積み重ね、それを達成するための高い目標と理想、これが必要だと気づかせてくれる作品。
私的『リンカーン』
テーマが有るか?共感できるか?
日本ではなかなか理解されづらい部分はあるが、民主主義とは何か?と言う大きなテーマ。
そしてリーダーの資質とは何か?そこにある孤独に立ち向かうリンカーンを描くことは、真リーダー像が見えてきて心が震える。
作り手の強い意思を感じるか?
スピルバーグ監督は、あきらかにオバマ政権への応援歌としてリンカーンを描いた節がある。
そこには民主主義への危機感があったんだと僕は感じました。
スピルバーグ監督はメッセージ性の強い作品が意外と多い監督だと判る。
俳優の意思や演技力が伝わるか?
ダニエル・デイ=ルイスの演技が圧巻!リーダー像を見事に演じきっていた。
もちろんリンカーンの実像を知る訳ではないが、魂を感じる演技だった。
映画らしい楽しさが備わっているか?
議会の駆け引きが中心の人間ドラマ、それでもリアリティにこだわった映像、強いメッセージ性を感じる作品。
エンターテイメント性
個人的には地味とは思わない、人と人との駆け引きが面白い。
そしてアメリカの民主主義がこれほど解りやすい形で描かれた作品は無かった。
演出が素晴らしいか?
スピルバーグ監督はどの作品でもその演出に隙はない。
このあたりは、クリント・イーストウッド監督など、ベテランの域の仕事だと思う。
なんと言っても俳優たちの素晴らしい演技を引き出している。
脚本が素晴らしいか?
雄弁さと背中から感じさせる部分、脚本と演出の素晴らしさが光る。
リンカーンの有名な演説「人民の人民による・・・」は出て来ない、それでもリンカーンの話す言葉にメッセージを感じる。
何度も見たくなるか?
感動的な物語、リーダーとしての志・姿勢を確認する意味でも、時折に観たい作品。
映画『リンカーン』のデータ
監督■スティーヴン・スピルバーグ
製作■スティーヴン・スピルバーグ/キャスリーン・ケネディ
製作総指揮■ダニエル・ルピ/ジェフ・スコール/ジョナサン・キング
原作■ドリス・カーンズ・グッドウィン 『リンカーン』(中央公論新社刊)
脚本■トニー・クシュナー
撮影■ヤヌス・カミンスキー
プロダクションデザイン■リック・カーター
衣装デザイン■ジョアンナ・ジョンストン
編集■マイケル・カーン
音楽■ジョン・ウィリアムズ
出演■ダニエル・デイ=ルイス/サリー・フィールド/デヴィッド・ストラザーン/ジョセフ・ゴードン=レヴィット―/ジェームズ・スペイダー/ハル・ホルブルック/トミー・リー・ジョーンズ
■アカデミー賞 2012年
主演男優賞 ダニエル・デイ=ルイス
美術賞 リック・カーター
■全米批評家協会賞 2012年
主演男優賞 ダニエル・デイ=ルイス
脚本賞 トニー・クシュナー
■NY批評家協会賞 2012年
男優賞 ダニエル・デイ=ルイス
助演女優賞 サリー・フィールド
脚本賞 トニー・クシュナー
■ゴールデン・グローブ 2012年
男優賞(ドラマ) ダニエル・デイ=ルイス
■英国アカデミー賞 2012年
主演男優賞 ダニエル・デイ=ルイス
■放送映画批評家協会賞 2012年
主演男優賞 ダニエル・デイ=ルイス
脚色賞 トニー・クシュナー
音楽賞 ジョン・ウィリアムズ
【解説】
「シンドラーのリスト」「プライベート・ライアン」の巨匠スティーヴン・スピルバーグ監督が、“アメリカ史上最も愛された大統領”エイブラハム・リンカーンの偉大な足跡を映画化した感動の伝記ドラマ。
国が大きく分断された過酷な状況において、リンカーンはいかにして奴隷解放という大いなる目的を達成するに至ったのか、その知られざる政治の舞台裏を、理想のリーダー像という視点から丁寧に描き出していく。
主演は本作の演技で「マイ・レフトフット」「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」に続いて、みごと3度目のアカデミー主演男優賞に輝いた名優ダニエル・デイ=ルイス。
共演はサリー・フィールド、ジョセフ・ゴードン=レヴィット、トミー・リー・ジョーンズ。
南北戦争末期。国を二分した激しい戦いは既に4年目に入り、戦況は北軍に傾きつつあったが、いまだ多くの若者の血が流れ続けていた。
再選を果たし、任期2期目を迎えた大統領エイブラハム・リンカーンは、奴隷制度の撤廃を定めた合衆国憲法修正第13条の成立に向け、いよいよ本格的な多数派工作に乗り出す。
しかし修正案の成立にこだわれば、戦争の終結は先延ばししなければならなくなってしまう。
一方家庭でも、子どもの死などで心に傷を抱える妻メアリーとの口論は絶えず、正義感あふれる長男ロバートの北軍入隊を、自らの願いとは裏腹に黙って見届けることしかできない歯がゆさにも苦悩を深めていく。そんな中、あらゆる手を尽くして反対派議員の切り崩しに奔走するリンカーンだったが…。(映画データベース –allcinema より)