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映画『若者のすべて』 美しいアラン・ドロンとヴィスコンティの出会い

映画『若者のすべて』 ROCCO EI SUOI FRATELLI

ルキノ・ヴィスコンティの生涯についてはこちらから

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2016年12月 4Kデジタル完全修復版 について

今回日本で公開が実現したのは、マーティン・スコセッシ設立のザ・フィルム・ファンデーションとGUCCIの資金提供により、フィルムを4Kで修復して2015年に完成したもの。
当時の撮影監督:ジュゼッペ・ロトゥンノの監修により当時の映像を再現。
また1960年当時、検閲によりカットされた2つのシーンを追加されて2分間尺が延びている

改めてこの作品を見ると、ギリシャ神話のような骨太な物語になっている。
実際、ヴィスコンティは新約聖書やトーマス・マンの「ヨゼフとその兄弟」、ドストエフスキーの「白痴」をイメージしていたと言うし、新約聖書の「カインとアベル」、ようは『エデンの東』の兄弟関係も見え隠れする。

流石に今回の完全修復版は映像が、古い作品(特にイタリア映画だと保管状態が悪いケースが多い)だと縦線が入ったり、色味(今回はモノクロだが)が微妙に違ったりするが、全て修正されていて非常に美しい
改めて大画面の映画館で見る価値はある!

-イタリア・ネオレアリズモの軌跡- 公式サイトはこちら

『若者のすべて デジタル完全修復版』
『郵便配達は二度ベルを鳴らす デジタル修復版』 2017年1月7日~
『揺れる大地 デジタル修復版』 2017年1月21日~

2016年12月24日(土)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開

アラン・ドロンとの出会いでリアリズムから耽美主義へ

この作品を観ると、ヴィスコンティの二面性が見えてくる。
一つはネオ・レアリズモの旗手としてのヴィスコンティと、もう一つは耽美主義的な作品を輩出したヴィスコンティ。
『夏の嵐』以降に作品に見られる耽美主義的な側面と、それ以前の作品に見られたリアリズムが見事に融合している。

イタリアの第二次世界大戦後の貧しい家族をリアリティに描くことの恐ろしさ。
それを最も顕著に表現していたのは、ロッコ達5人兄弟の母親で有った。
それは、お金に執着する姿...その度に背筋に冷たいものが走る。
ヴィスコンティは、この母親を通してイタリアの戦後を描いてみせた。
それはロッセリーニやデ・シーカの初期の作品に共通するものが有る。
彼らの作品以上に、この作品(と言うかヴィスコンティ)が素晴らしいのは、リアリズムと同時に、そこに出てくる登場人物の描写が実に丹念で、その情念までも画面に映し出されてしまうことだ。

と、同時にロッコ、シモーネとナディアとの三角関係を通して、愛の不毛を描いている。
ロッコの聖人のような寛容な心とシモーネの世俗的な邪悪な心...それに翻弄される一人の女性ナディア。
ヴィスコンティの後の作品『地獄に堕ちた勇者ども』と共通する、自由主義(個人主義)とロマン主義(全体主義)の対峙が既にそこに描かれている。

この作品には、イタリアの貧しい生活を描いたリアリズムと同時に、人間に内在する2つの側面を兄弟を通して描いてみせる。
人間の持つ欲望の恐ろしさを見事に描き、それが一つの家族を崩壊へと導く。
第二次世界大戦直後という時代が、イタリアの人々、いや庶民の心を荒廃させた...本当の貧しさ、お金を持たないこと、それ以上に人を愛する心を失う事...いや、愛し方すら忘れた心、そんな思いを強く訴えかけてくる。

愛の不毛と言えば、ミケランジェロ・アントニーニを思い出す。
彼はヴィスコンティの下で映画を学んだ、この作品を観ていて、ふとそんなことを思い出した。
また、この作品でのアラン・ドロンは、実に生き生きして清々しい魅力を振りまいていた。
『太陽がいっぱい』と並ぶ、いやそれ以上の彼の名演技だと思う。

 

映画『若者のすべて』のデータ

ROCCO EI SUOI FRATELLI 177分 1960年 イタリア=フランス

監督■ルキノ・ヴィスコンティ
製作■ゴッフリード・ロンバルド
原作■ジョヴァンニ・テストーリ『ギゾルファ橋』
原案■ルキノ・ヴィスコンティ/ヴァスコ・プラトリーニ
脚本■ルキノ・ヴィスコンティ/スーゾ・チェッキ・ダミーコ/パスクァーレ・フェスタ・カンパニーレ/マッシモ・フランチオーザ/エンリコ・メディオーリ
撮影■ジュゼッペ・ロトゥンノ
音楽■ニーノ・ロータ
編集■マリオ・セランドレイ
美術■マリオ・ガルブリア
衣装■ピエロ・トージ
助監督■リナルド・リッチ
製作会社■ティタヌス/フィルム・マルソー
備考■白黒
日本初公開■1960年
1960年12月27日日本公開時:140分
1982年6月8日完全版日本公開時:177分
2016年12月24日デジタル完全修復版日本公開時:179分
出演■アラン・ドロン/アニー・ジラルド/レナート・サルヴァトーリ/クラウディア・カルディナーレ/カティーナ・パクシヌー/ロジェ・アンナ/パオロ・ストッパ/スピロス・フォーカス/マックス・カルティエール/ロッコ・ヴィドラッツィ/コラド・パーニ/アレッサンドラ・パナーロ/アドリアーナ・アスティ/シュジー・ドレール/クラウディア・モーリ

ヴェネチア国際映画祭 1960年
審査員特別賞授賞 ルキノ・ヴィスコンティ
国際映画評論家連盟賞授賞 ルキノ・ヴィスコンティ

 巨匠ヴィスコンティが悠揚迫らぬタッチでつづる、兄弟愛の大ロマンである。
南部で貧窮にあえいでいたパロンディ家は、先に北部の大都市ミラノに出稼ぎに来ていた長兄ヴィンチェを頼って、老いた母と兄弟4人でやって来る(冒頭、広大なミラノ駅をガラス張りの天井越しに眺める俯瞰ショットが小さな母子たちをパンして捉える。大作の予感が充ち満ちる)。長兄には同郷出身の婚約者ジネッタ(カルディナーレ)がいたが、田舎出の彼らに対する風当たりは厳しい。
そして、次兄シモーネ(サルヴァトーリ)が主に登場する第二部へ。彼は三男のロッコ(ドロン)と共にプロ・ボクサーを目指しジムに入ったが、娼婦ナディア(ジラルド)に夢中になり、自らその可能性を潰して、悪の道に陥る。が、そのナディアはロッコを愛し始め、これに憤ったシモーネは仲間と共に、ロッコの目の前で彼女を犯す(まさに圧巻の場面!)。ロッコのお蔭で立ち直りかけていたナディアだが、輪姦に心深く傷つき、再び街娼へと逆戻りした。
そして第三部ロッコ篇。ロッコもまたナディアを諦めた。クリーニング店で地道に働いていたのだが、それも辞め、一家の期待を一身にボクサー稼業へ舞い戻る。一方、シモーネの暮らしは荒れに荒れ、結局、ナディアを誘ったバカンス旅行(豪華な園遊会を開くホテルを前にたたずむ二人が妙に寒々しかったのが記憶に残る)で彼女を殺してしまう(夜、森の池のそばで。これも凄まじいシーン)。ロッコがボクサーに復帰して5年経っていた。いよいよチャンピオンとなった彼を祝っている時、憔悴しきったシモーネが家に帰ってくる。彼にとことん侮辱され、また愛した女を殺されたロッコではあったが、今は何も言わず、泣きながら兄を抱き締めるのだった・・・。

 このネオレアリズモの総集編のような壮大な叙事詩を放ってのち、ヴィスコンティは、より典雅で耽美的かつ様式的な貴族階級を描く独自の世界に没入していくことになる。

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