映画『ハドソン川の奇跡』 SULLY
155人の命を救い、
容疑者になった男。
実際にあった本当の奇跡の話を、イーストウッド監督の演出力で魅せる
2009年当時、日本でもニュースが話題になったが、凄い奇跡が有るものだ!と感心した。
日本人にとっては、ニューヨークという都会のど真ん中の川への不時着がどういうものか?、隅田川か淀川に飛行機が不時着?というくらいのイメージ(怖)
それを徹底的にリアルにイーストウッド監督は見せてくれる、ドキュメンタリーとは違う、そこがイーストウッド監督の凄いところ!
で、この作品ではその先が描かれていて、奇跡を起こした機長に過失が有ったのでは?と言うことが調査が始まる。
それは内部的なもので有って、実際どこまでアメリカのマスコミで報じられたかは日本にいては知らないけど。
最近製作されたロバート・ゼメキス監督(こちらも『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の名匠)の『フライト』('12)に酷似しているなぁ~と思ったけど、『フライト』は“堕ちた英雄”の話でマスコミでも叩かる。
一方、こちらは事故調査委員会も非常に論理的に行われ、逆にだからこそ主人公・サリーが精神的に追い詰められていく。
それでも、彼のとった態度は毅然としたものだった、それは何か?
民間航空史上、予想し得なかった絶望的な状況に突然放り込まれた時、”自分の仕事に誇りを持ち”「自分のやるべきことをやっただけ」と言える、そこにあるのは主人公の責任感=他者に対する思いやりであり、その心情を描くことを見事に実現した作品である。
私的『ハドソン川の奇跡』
① テーマが有るか?共感できるか?
飛行機を飛ばすことは主人公・サリーにとっては、いつもやっている仕事であり、人命を最も尊ぶ気持ちを持ち続けることがその仕事を遂行させることができる、自分の強い意志であることを持ち続けている。
だから一貫して自分の仕事に誇りを持ち、揺るぎない自信を持っている、一方で飛行機を不時着させるという一生に一度経験できるか判らない緊急事態に対する恐怖感、この主人公の心の葛藤が伝わってくる。
常に人を思いやる気持ちが伝わってくることで、それを受け取った助かった人々と映画を観た観客が一体化して共感し、感動に涙できる作品だった。
② 作り手の強い意思を感じるか?
今回のストーリーの基になったのは、チェズレイ・サレンバーガー機長の手記「Highest Duty: My Search for What Really Matters/機長、究極の決断」で、本人は事故後5日後に行われたオバマ大統領就任式にも招待され、様々な表彰を受け、ニューヨーク州知事のデビッド・パターソンは、この件を「Miracle on the Hudson/ハドソン川の奇跡」と呼び、機長を賞賛している。
その中で、機長自身の知られざる苦悩が有ったことをベースに、映画もそこにスポット当てて描いていることで、極限の状態で人は何をするか?日常からの継続が人の危機を救うと言うことが良く判る。
③ 俳優の意思や演技力が伝わるか?
主演は名優トム・ハンクス、作品中のほとんどが主人公の心情を描いており、映像としても描かれている部分と、トム・ハンクスの名演によって描かれてる部分が大きい。
彼も、その奇跡の物語を当然のように知っており、主演が決まった時には、チェズレイ・サレンバーガー機長やアテンダント等の話を聞いて役作りをしたと言う。
④ 映画らしい楽しさが備わっているか?
飛行機の不時着シーンが何度か映し出される、その迫力と緊迫感は大画面で見る醍醐味が有る。
なんと言っても、巨大な旅客機がマンハッタンのど真ん中の川に着水するのである。
そして緊迫感を出すための演出が散りばめられている。
⑤ エンターテインメント性
アメリカでも何度も再現ドラマとして映像化されていると思う(実際は知らないけど、日本では「ザ!世界仰天ニュース」で再現ドラマ化している)。
主人公のサリーの心情を映像でどう表現するか?冒頭から見事に表現している。
公聴会での緊張感も“大逆転”ありと楽しめる。
⑥ 演出が素晴らしいか?
90分ちょっとと言う非常に短い作品になっている、近年のイーストウッド監督作品でも短い方だと思うが、それは数十分間の奇跡に対して、主人公・サリーの心の動きに注力して、その心情に合わせて映像化している。
実際の出来事と物語は時間通りには進まない、時間軸が入れ替わることで主人公の心情の動きが明確になった。
⑦ 脚本が素晴らしいか?
あえて、副機長やその他のクルーの心情、そしてパニックになる乗客を描くことを最低限している。
更に言うと、サリーの妻とのやり取りは電話で行われるが、こちらも最小限の描き方をしている。
それでも重要な点をしっかりと取り込んでいる脚本も素晴らしい、サリーと妻との最後のやり取り、妻がサリーに話す言葉が突き刺さる。
実際に起きた事実が有ることも理由だと思うけど、あえてサリー以外の心情はできるだけ排除しているように思える。
⑧何度も見たくなるか?
主人公の勇気に、自分がどうあるべきか?日常の仕事に対してもどうあるべきか?を考えさせてくれる。
そんな時に、またこの作品を見ると、自分の仕事に自信を持ったり、迷いを少しでも吹っ切れる気がする。
そしてこちらが、チェズレイ・サレンバーガー機長夫妻本人。
映画『ハドソン川の奇跡』のデータ
監督■クリント・イーストウッド
原作■チェズレイ・“サリー”・サレンバーガー/ジェフリー・ザスロウ
脚本■トッド・コマーニキ
撮影■トム・スターン
衣装デザイン■デボラ・ホッパー
音楽■クリスチャン・ジェイコブ/ザ・ティアニー・サットン・バンド
出演■トム・ハンクス/アーロン・エッカート/ローラ・リニー
上映時間■96分
製作国■アメリカ
配給■ワーナー・ブラザース映画
公開情報■丸の内ピカデリー、新宿ピカデリー他 全国公開中
【作品紹介】
2009年1月15日、極寒のニューヨーク上空850mで155名を乗せた航空機を突如襲った全エンジン停止事故。
160万人が住む大都会の真上で70トンの機体は高速で墜落していく。
近くの空港に着陸するよう管制室から指示がある中、機長サリーはそれを不可と判断し、ハドソン川への不時着を決断。
航空史上誰も予想しえない絶望的な状況の中、見事に成功させ“全員生存”の偉業を成し遂げる。
その偉業は「ハドソン川の奇跡」と呼ばれ、サリーは一躍英雄として称賛されるも、機長の“究極の決断”に思わぬ疑惑が掛けられ、一夜にして殺人未遂の罪に問われることに…。