映画『影武者』 THE SHADOW WARRIOR
動乱の戦国を巨大なる幻が行く--
晩年の歴史絵巻、戦記ものというより人間ドラマ
黒澤明監督晩年の作品と言って良いのだろう。
黒澤監督は、やはりダイナミックな映像がその最大の持ち味だと思う。
それこそは映画であり、また人々がダイナミックに躍動することで、一人一人のキャラクターが浮かび上がってくる。
この作品では、歴史と言うものが大前提にある。
影武者を捜し出すエピソード自体はオリジナルになるが、武田信玄の「喪を三年秘す」のは歴史的な事実。
また弟・信廉が一時期、信玄の影武者になっていたのは、これまた歴史的な通説。
信玄の偉大さが、影武者になった泥棒と武田勝頼を通して描かれている。
そしてそこにあるのは、戦争の無情さで有る。
武田信玄ほどの武将になると、戦国時代という時代であったとしても、人命の尊さを知っているのである。
その事が人の上に立つものの資質なのかもしれない。
それ以上にこの映画の醍醐味は、武田の騎馬隊を再現した数々の戦闘シーン。
これだけの規模の人間達を操り、見事に合戦シーンを再現してみせた。
これこそが映画なのである、黒澤監督にしか出来ないこだわりと完全主義。
武田信玄と泥棒(影武者)、人格者と卑しい者、この相反する人間性の二役を見事に仲代達也が演じている。
当初は勝新太郎が演じていたが、勝も黒澤監督も完全主義者で強情、意見が分かれて互いに折れず、勝が役を降りたという。
そこには黒澤監督の、また勝新太郎の映画への執念が感じ取れる。
この作品自体、執念の固まりのような凄味が有る。
Reviewed in 12.1999
2017年に改めて振り返って見ると
黒澤明監督は1965年(私が生まれた年)までに作った映画が一番良い時期だったように思う。
1999年頃はまだ私も日本映画をそれほど見ておらず、黒澤明監督の映画もそれほど見ていなかった。
この『影武者』にしても続く『乱』にしても、黒澤明時代劇として十分に楽しめる作品だし、VFXを使わずに戦闘シーンを再現できるのは、黒澤明の名前がなければできないことだと思う。
大規模戦闘シーンを再現できるだけの巨匠になったことは、それを作る資格を意味するが、ダイナミズムがそれで達成できるものではないことも事実と判った。
『野良犬』『羅生門』から『天国と地獄』『赤ひげ』までのダイナミズムを超えることはもうなかった気がする。
映画『影武者』のデータ
THE SHADOW WARRIOR 179分 1980年 日本
監督■黒澤明
製作■黒澤明/田中友幸
外国版製作■フランシス・コッポラ/ジョージ・ルーカス
脚本■黒澤明/井手雅人
撮影■斎藤孝雄/上田正治
撮影協力■中井朝一/宮川一夫
美術■村木与四郎/桜木晶(助手)
音楽■池辺晋一郎
録音■矢野口文雄
監督部チーフ■本多猪四郎
アドバイザー■橋本忍
照明■佐野武治
編集■黒澤明
出演■仲代達也/山崎努/隆大介/萩原健一/根津甚八/大滝秀治/油井昌由樹/桃井かおり/倍賞美津子/室田日出男/志村喬
カンヌ国際映画祭 1980年
パルム・ドール(グランプリ)授賞
英国アカデミー賞
監督賞授賞 黒澤明
衣装デザイン賞
フランス・セザール賞
最優秀外国映画賞授賞
<DATA>
巨匠・黒澤明監督が「デルス・ウザーラ」以来5年ぶり(日本映画としては「どですかでん」以来10年ぶり)に製作した、戦国スペクタクル巨編。
武田信玄の影武者として生きた男の悲喜劇を荘厳にして絢爛な映像で描く。
戦国時代。
家康の野田城攻めの折り、鉄砲で撃たれこの世を去った武田信玄。
弟信廉は信玄死すの報を打ち消すため信玄の影武者を立てる。男は盗みの罪から処刑されるところを信玄と瓜二つだったことから助けられたのだった。
だが男にとって戦国の雄・信玄として生きることはあまりにも過酷だった……。
製作費の高騰で計画が頓挫しかかったり、当初主役だった勝新太郎が監督との意見の相違から途中降板するなどの話題にも事欠かなかった。
カンヌ国際映画祭グランプリ受賞。 <allcinema>全国統一の気運が高まる戦国時代、その雄“武田信玄"は敵を欺くため、影武者を使ったと言われている。
死刑執行寸前だった泥棒(仲代達也)が、実は武田信玄に瓜二つだったことからこの物語は始まる。
そして、京に進軍の途中、信玄が死にその遺言で、三年の間信玄の死を隠すことに...
海外版製作を、黒澤監督を師と仰ぐフランシス・コッポラ、ジョージ・ルーカスが引 き受けることで、製作が実現化した。