映画『聲の形』
伝えたい“こえ”がある。聞きたい“こえ”がある。
(36人のお亡くなりになった夢を持った人々のご冥福をお祈りします、私は京都アニメーションを応援しています。)
声=言葉ほど伝わらないものはない
加害者、被害者、傍観者、第三者、そして親友、友達ってなんだろう?どこからが友達でどこからが知り合い、他人?
この夏、同じアニメ、青春映画、ハッピー・エンドと共通項があるのに、『君の名は。』が"陽"の作品だとすると、こちらは”陰"の作品。
『君の名は。』の圧倒的な映像と音楽と共に怒涛のような展開があるが、こちらは静かだけど人の強さ・弱さ・繋がりが複雑に絡み合い流れていく。
原作は「このマンガがすごい!2015」オトコ編第1位、第19回「手塚治虫文化賞」新生賞受賞!を受賞した大今良時の漫画「聲の形」、少年少女時代のいじめを描きつつ青春の1ページを綴って共感と感動を呼んだ作品。
このベストセラーコミックを、『映画 けいおん!』('11年)など、多くの作品を輩出している京都アニメーションにるアニメーション映画化!
監督はTVアニメ「けいおん!」で監督を務めた京都アニメーションに所属する山田尚子。
また、脚本も「けいおん!」でも山田監督とコンビを組んだ吉田玲子。
主題歌には本作に共感したaikoの新曲「恋をしたのは」、個人的には雰囲気とは合ってなかったと思う。
小学生の頃に、身障者の人を見ると異物を見たと思い自己防衛本能が働くのは子どもの素直な反応だと思う。
そして、周りに煽られて調子に乗ってしまうのも、そんなクラスの仲間からハシゴを外されて仲間外れにされることも日常だと思う。
そんな時に「自殺」なんていう心の闇を抱えることもあると思う。
でもどこかで、自分の心の中に抱えている想いを伝えないと伝わらない。
それは「聲」なのか?声に形ってあるのだろうか?
いじめられるのが聴覚障害者ということで、何か特別なこと?と言う誤解を招きそうだけど、誰にでも少しは経験がある苦い青春の一部だと思う。
今、この作品の登場人物と同性代の人も、かつて通過してきた青春時代(よりちょっと前)を思いを馳せる人も、色々な思いがこみ上げてくる作品。
私は、後半は涙があふれて止まらなかった・・・
私的『聲の形』
① テーマが有るか?共感できるか?
子供の頃に「自分の異物」を排除する行為として”いじめ”と言う表現をとることが多いけど、それが引き金になって、クラスの中に波紋が広がっていく。
どの子供も、私の中では「あるある」なので、主人公のクラスメートの女の子・植野は一番本音に近い部分にいて、面倒見の良い姉御的な立ち位置だけど、そこの距離感を間違えるといじめを主導する悪役になってしまう。
でもどちらもあるし、第三者的に良い子でいようとする川井みきみたいな女の子も一番いるタイプな気がする。
子供だって、大人だって、どこかで一歩を踏み出して本音を言える、そんなことが無い限り相手には通じない。
それが、どんなに大変なことなのか?だから青春ってほろ苦く、人生って辛い長い道のり。
見ていて涙が止まらなくなる、喪失感から自殺、そこで立ち止まる、留まる、そして再生していく姿に感動する。
② 作り手の強い意思を感じるか?
いじめってなんだろう、自殺ってなんだろう、根本的なに今も40年前(私の子供時代)も何も変わってない。
昭和の後半も、この映画と同じような感じだった。
この作品では主人公が一歩踏み出すことで、周りも少しずつ前に進んでいく。
結局人生は、自分の意志と力で一歩ずつ進むしかない。
③ 俳優の意思や演技力が伝わるか?
この作品はヒロインの女の子が聴覚障害者でしかも可愛い、と言う特殊な状況だから起きるあり得ない話、という意見もネットとかで見かける。
そこは、原作マンガそしてアニメーションと言う(しかも「けいおん!」の京都アニメーション)ことを考えると、そこは符号として女の子は可愛いのは当たり前、と言う前提が必要だろうと。
そこに変なリアリティを持ってこなくても良いのでは?と。
逆にこれを実写でリアルにやったらどうなるのか?とかも考えてしまうけど。
やっぱり、このくらい重いテーマの青春映画はアニメでやるのも、少し距離を置くことができて見れるのではないのかな?と思う。
④ 映画らしい楽しさが備わっているか?
この時期だから、どうしても『君の名は。』と比べたくなってしまう。
こちらの映像もとっても良くて、日本のアニメーションの質の高さは改めて凄いと思う。
映画はリアリティでも有ると同時に、虚像でもあるので、アニメと言うところで判りやすく虚像に入り込んで行ける、映画でありアニメでしか表現できないギリギリのところだと思う。
だから成立しているところかな・・・ヒロインの妹の撮る写真が実写だとちょっとキツイね。
⑤ エンターテインメント性
共感できる、逆に全く共感できない、でも誰でも通過してきた・している真っ最中の物語。
美しい映像で表現しているところで成功していると思う。
あっ、全然関係ないけど、大垣市が舞台なんだよね、なんとなく都会と田舎が混在していて、現在とちょっと昔のような雰囲気も有って、『君の名は。』とは違う良さが有った。
⑥ 演出が素晴らしいか?
アニメはトリックが使いやすい、男女の性別とかね。
それと「人の顔を見ることが出来ない」表現をアニメなら簡単にできる。
(今回の顔に×マークって、何かのアニメで見た記憶があるんだよなぁ~)
映像としても演出としても、水の表現が素晴らしかった・・・それは涙で有ったり、川で有ったり。
⑦ 脚本が素晴らしいか?
自分が身障者じゃないので、身障者側の気持ちが判らない。
でも、人間って身体だけではなく、能力や心の部分にも傷があったりするから、結局、そこを突かれると痛いんじゃないかな?
聴覚障害者というのも、アニメでヒロインが可愛いと言うのも、一つの符号としてとらえている。
それ以外の部分に関しては、とっても本音の部分だと思う。
あえて言うと、親子の仲が良すぎること、ここが一番気持ちが伝わりづらい部分だからね。
子供が自殺未遂をしたら、こういう反応になるのかな?
でも、キャラクターの心が近づいたり離れたり、原作が有るから・・・だけど、展開の面白さを感じたし、色んなことを思い起こさせてくれた。
⑧何度も見たくなるか?
重いテーマだけど、ラストはハッピー・エンドで、色んなことを考えさせてくれる。
作品のどこかに何か答えが有るのか?少し勇気をもらいたい時に見たい映画。
映画『聲の形』のデータ
原作■「聲の形」大今良時(講談社コミックス刊)
監督■山田尚子
脚本■吉田玲子
キャラクターデザイン■西屋太志
美術監督■篠原睦雄
色彩設計■石田奈央美
設定■秋竹斉一
撮影監督■高尾一也
音響監督■鶴岡陽太
音楽■牛尾憲輔
音楽制作■ポニーキャニオン
アニメーション制作■京都アニメーション
製作■映画聲の形製作委員会
配給■松竹
声の出演■
石田将也役:入野自由/西宮硝子役:早見沙織/西宮結絃役:悠木碧/永束友宏役:小野賢章/植野直花役:金子有希/佐原みよこ役:石川由依/川井みき役:潘めぐみ/真柴智役:豊永利行/石田将也(小学生)役:松岡茉優
公開日■2016年9月17日
ガキ大将だった小学6年生の石田将也は、転校生の少女、西宮硝子へ無邪気な好奇心を持つ。
「いい奴ぶってんじゃねーよ。」自分の想いを伝えられないふたりはすれ違い、分かり合えないまま、ある日硝子は転校してしまう。
やがて五年の時を経て、別々の場所で高校生へと成長したふたり。
あの日以来、伝えたい想いを内に抱えていた将也は硝子のもとを訪れる。
「俺と西宮、友達になれるかな?」再会したふたりは、今まで距離を置いていた同級生たちに会いに行く。
止まっていた時間が少しずつ動きだし、ふたりの世界は変わっていったように見えたが――。
(c)大今良時・講談社/映画聲の形製作委員会