映画『風立ちぬ』 THE WIND RISES
126分 2013年 日本
生きねば。
宮﨑駿(監督作品)の中では、私は一番好きな作品
宮崎駿監督5年ぶりの新作アニメ。
零戦の設計者・堀越二郎の半生と、堀辰雄の小説「風立ちぬ」のエピソードを交えたオリジナル作品。
後半は溢れ出しそうな涙を止めるのに苦労しました!
周りが若いカップルばっかりなので、流石におじさん一人では泣けない(汗)
宮崎アニメの集大成のような描写、音楽、音響・・・この作品がアニメである理由もしっかり有りました。
本当に音の表現が素晴らしかった~飛行機や地震の音、等々。
そして、こんなに素敵なラヴ・ストーリーとは思っていなかった。
話の中心に、小説「風立ちぬ」が有って、主人公・二郎とヒロイン・菜穂子のラヴ・ストーリーが、暖かくそして切なく展開されていきます。
もう一つの話が、堀越二郎の夢「美しい飛行機を作りたい」とひたすら追い求める姿が描かれる。
何故、この二つのモチーフを一つの物語に詰め込んだのか。
一つは、男の夢と愛情は同等なもの、おそらく宮崎監督自身の想いが詰まってるんだと思う。
宮崎監督自身のアニメに掛けてきた人生そのもの。
二郎は菜穂子を置き去りにしても、飛行機の設計に没頭する、でも菜穂子の事も心から愛している、ストレートなくらいに。
もう一つは、道具(飛行機)に込められた宮崎監督の想い。
道具は、誤った使い方によっては、沢山の悲劇を生むということ。
『ナウシカ』や『もののけ姫』での文明進歩と自然破壊をストレートに描くような事は無く、子供のような純粋な夢や想いが、戦争の武器となって悲劇を生み出してしまった結果しか描かれない。
だからこそ主人公と主人公の作り手・宮崎監督自身は「生きねば」ならない。
生き抜いて、語り部となる必要が有るのではと・・・
切なく悲しいラヴ・ストーリーと共に、色んな思いが交錯する作品でした。
こんな大人のための宮崎アニメを見るなんて思ってもいなかった。
私は一人で観に行きましたが、是非、愛する人と見に行って欲しいなぁ~って想いました。
二郎の妹・加代は、『トトロ』のメイが大きくなったような感じ、そんなのも嬉しかった。
純愛、女性は自分の一番の美しい時を、好きな人に残して逝くものなのかもしれない。
私的『風立ちぬ』
① テーマが有るか?共感できるか?
実は賛否が分かれるところ、この映画を反戦映画だと思うか、否か。
私は明確に反戦映画だと感じた!
実は、堀越二郎とカプローニは、メフィストフェレスの話であり、悪魔のカプローニが、堀越二郎に魂をよこせば10年間、好きな飛行機を作る自由を与え、堀越二郎は人を殺す兵器、数多くの人が命を落とした零戦を作った。
ラストで再び堀越二郎とカプローニが出会うシーンは、煉獄で天国へ行くのか、地獄に堕ちるのか、魂を失い戦後の堀越二郎は何も成し遂げなかったと言われています。
② 作り手の強い意思を感じるか?
宮﨑駿監督はこの作品をもって長編アニメの制作から引退しました。
もしからしたら復活も・・・と思いつつも、宮﨑駿監督は、最後の最後に子供向けではなく、大人向け=実は自分の好きな映画を作りました。
宮﨑駿監督は、この作品で「自分はアニメを作ることが好きで好きでたまらない」と隠しもせずに描き続けました。
映画自体が、監督そのものなのです。
だから、宮﨑駿監督は、試写で初めて見て、自分の作品に初めて涙したのです。
③ 俳優の意思や演技力が伝わるか?
主演の堀越二郎の声に、全く素人の庵野秀明監督(新世紀エヴァンゲリオン)にこだわり、そこがこの作品の良さでも有ります、堀越二郎と宮﨑駿、そして庵野秀明、これが共通言語になってるのです。
④ 映画らしい楽しさが備わっているか?
ジブリのアニメにハズレは有りません!
映像の素晴らしさはもちろんなんですが、やっぱり宮﨑駿にメカを描かせるとやっぱり良い。
そして実写ではなくアニメにする意味、と言うものを感じさせてくれます、特に関東大震災のシーンは見事です。
サウンド・エフェクトも人の声で作っています。
⑤ エンターテイメント性
宮﨑アニメの真骨頂、裏にテーマ性を隠しつつも、楽しさを前面に出した作りになっています。
ただ、子供受けはしなかったようですが(笑)
⑥ 演出が素晴らしいか?
映画らしさ、とも被るんですが、今回の作品は実写でやっても良いくらいの大人向けの作品。
それでも、アニメとしてやる価値、表現力・演出がふんだんに見ることが出来ます。
⑦ 脚本が素晴らしいか?
原作の「風立ちぬ」をベースにしながら、全く別のテーマやモチーフを持ち込んで、見事に作品にしています。
そして宮﨑アニメとしては、初めての大人のラヴ・ストーリー、それも見事に物語にしてました。
⑧何度も見たくなるか?
宮﨑アニメはどれも、もちろんこの作品も何度も観たくなります。
おそらくアニメという枠をはめることで、非現実的な世界に誘い込み、エンターテインメントとして楽しませてくれるんだと感じます。
映画『風立ちぬ』のデータ
監督■宮崎駿
プロデューサー■鈴木敏夫
制作■星野康二/スタジオジブリ
原作■宮崎駿
脚本■宮崎駿
作画監督■高坂希太郎
動画検査■舘野仁美
美術監督■武重洋二
色彩設計■保田道世
撮影監督■奥井敦
編集■瀬山武司
アフレコ演出■木村絵理子
音楽■久石譲
音響演出■笠松広司
主題歌■荒井由実『ひこうき雲』
整音■笠松広司
声の出演:庵野秀明(堀越二郎)/瀧本美織(里見菜穂子)/西島秀俊(本庄季郎)/西村雅彦(黒川)/スティーブン・アルパート(カストルプ)/風間杜夫(里見)/竹下景子(二郎の母)/志田未来(堀越加代)/國村隼(服部)/大竹しのぶ(黒川夫人)/野村萬斎(カプローニ)
【解説】宮崎駿が月刊模型雑誌『モデルグラフィックス』に連載していた漫画を自らアニメ映画化。零戦こと零式艦上戦闘機の設計者として知られる堀越二郎の半生をモチーフに、同時代の作家・堀辰雄の小説『風立ちぬ』のエピソードを盛り込みつつ、戦争という激動の時代の中で様々な矛盾を抱えながらも飛行機という自らの夢と欲望に真摯に生きた一人の青年技術者の人生を、リアリズムの中にも大胆な省略や夢と現実を行き来する自在な語り口で描き出す。声の出演は、主人公・堀越二郎役に「ヱヴァンゲリヲン」シリーズの監督でこれが声優初挑戦の庵野秀明、ヒロインの里見菜穂子役にTV「てっぱん」の瀧本美織。
少年時代に夢の中で憧れのカプローニ伯爵と出会い、飛行機の設計士になることを決意した堀越二郎。1923年、東京帝国大学に進学するため上京した彼は、列車の中で里見菜穂子と出会い心惹かれる。そしてその移動中に関東大震災に遭遇、混乱の中で菜穂子とお供のお絹を助ける。卒業後、晴れて三菱内燃機株式会社への入社を果たした二郎は、念願の設計士としての道を歩み始める。しかし視察したドイツのユンカース社で技術力の差を痛感し、設計主務者に選ばれた七試艦上戦闘機のテスト飛行も失敗に終わる。1933年夏、失意の中で軽井沢を訪れた二郎は、そこで菜穂子と運命の再会を果たす。(映画データベース – allcinema より)